チンアナゴってどんな魚?知られざる体の秘密と自然界の試練

2020年のある日、東京にある「すみだ水族館」で、ちょっとしたニュースが話題になりました。

水族館の人気者・チンアナゴたちが、人の姿を見かけなくなったことで、人見知りをするようになってしまったのです。

これは新型感染症による外出自粛の時期のことで、人の気配がなくなった館内で、チンアナゴが引っ込み思案になってしまったのです。

それに対処するため、水族館では、タブレットを使って来館者の顔を見せるというユニークな取り組みが行われ、大きな話題となりました。

私はその取り組みに直接参加することはできませんでしたが、ニュースを見たときの印象は今も心に残っています。

この一件をきっかけに、「チンアナゴってどんな生き物なんだろう?」「食べられるの?」「自然の中ではどうやって生きているの?」といった疑問が湧いてきた方もいるかもしれません。

この記事では、チンアナゴに関する素朴な疑問にじっくりとお答えしていきます。

チンアナゴって食用にできるの?実は◯◯だった!

チンアナゴ」という名前を聞くと、多くの人が「アナゴなら食べられるんじゃない?」と思うのではないでしょうか。

確かに名前に“アナゴ”とつくため、食卓にのぼるあのアナゴと同じものだと勘違いされがちです。

ですが、実際のところはちょっと違います。

チンアナゴは食べようと思えば食べられないことはありませんが、食用としてはおすすめされていません。

その理由のひとつが、体の構造にあります。

チンアナゴの体はとても細く、ほとんどが骨でできています。そのため、可食部がとても少ないのです。

また、体が小さく肉付きも薄いため、「仮に料理するにしても、せいぜいフライくらいしか思いつかない」という声もよく聞かれます。

そしてもうひとつ、価格面の問題もあります。

チンアナゴは観賞用としても人気があり、ペットショップなどでは1匹あたり2,000円から3,000円ほどで販売されています。

そのため、食べる目的で購入するには割高で、コストパフォーマンスを考えると現実的ではないのです。

ちなみに、私たちが普段食べているアナゴは「マアナゴ」と呼ばれ、チンアナゴとは同じアナゴ科に属してはいるものの、別の種になります。

下記の表で違いを整理してみましょう。

種類 科・分類 用途 特徴
チンアナゴ アナゴ科 観賞用 骨が多く肉が少ない。価格が高い。
マアナゴ アナゴ科 食用 肉厚でやわらかく、調理しやすい。

つまり、「見て楽しむのがチンアナゴ、食べて美味しいのがマアナゴ」と覚えておくと分かりやすいですね。

また、チンアナゴのかわいらしい表情やしぐさを見ると、「とてもじゃないけど食べるなんてできない」と感じる方も多いでしょう。

海の中ではどんな暮らし?チンアナゴの天敵と生存戦略

水族館でのんびりとした姿を見せてくれるチンアナゴですが、自然界では常に命の危険と隣り合わせです。

彼らには、明確に「この生き物が天敵です」と言い切れるような存在は少ないのですが、大型の肉食魚に狙われる可能性が高いことは知られています。

ただし、実際に捕食される瞬間を目撃するのはとても難しいのです。

なぜなら、チンアナゴはとても慎重で臆病な性格をしており、ちょっとした刺激にもすばやく反応して、体を引っ込めてしまうからです。

動画サイトなどには、チンアナゴが砂の中にすばやく潜る映像がいくつも投稿されています。

この反応の早さは、敵から身を守るための重要なスキルであり、自然界で生き抜くための「知恵」なのです。

とはいえ、チンアナゴも生きていくためにはしっかりと栄養をとる必要があります。

彼らの主な食べものは「動物性プランクトン」です。

砂から顔を出して、潮の流れに乗ってやってくるプランクトンを口を開けてキャッチしています。

そのため、チンアナゴは常に水流のある方向を向いており、効率よくエサをとれる位置に体を置いているのです。

ときには、夢中でプランクトンを追いかけるあまり、砂の外に体全体を出してしまうこともあるそうですよ。

チンアナゴの体のつくりってどうなってるの?

一見すると地味に見えるチンアナゴですが、体のつくりには興味深い特徴があります。

まず、チンアナゴの体長のおよそ3分の2は「尾」の部分にあたります。

細くてとがった尾は、砂の中に穴を掘るための“道具”としても機能しており、チンアナゴが巣作りをするときには欠かせません。

お腹のあたりに見える小さな黒い点は「肛門」で、それより後ろがすべて尾部なのです。

大阪の「ニフレル」では、透明な砂を使った展示が行われていて、チンアナゴがどのように地中を動いているのかが、はっきりと観察できます。

彼らは真っすぐ潜っていくのではなく、体を波のようにくねらせながら、滑らかに地中へと入り込んでいきます。

この姿はまさに「海底のアート」とも言える美しさで、見ているとつい時間を忘れてしまうほどです。

実はまだまだ謎が多いチンアナゴの世界

これまで、チンアナゴについていろいろとご紹介してきましたが、実は分かっていないことの方が多いのです。

水族館で長年飼育を担当しているスタッフでさえ、「チンアナゴはまだまだ未知の部分が多い」と話しています。

彼らがどのように仲間とコミュニケーションをとっているのか、繁殖のしくみはどうなっているのか、細かい行動の意味など、研究の余地はたくさんあります。

このように、チンアナゴはただ「かわいい」だけの生き物ではなく、観察するたびに新しい発見がある、奥深い存在なのです。

水族館などでチンアナゴを見かけたときには、少し立ち止まって、じっくり観察してみてください。

彼らの姿の中に、私たちの知らない不思議がたくさん隠れているかもしれません。